~本記事の要約~
1.買物弱者問題は、「買物弱者」や「食料品アクセス問題」、「フードデザート問題」など様々な角度から議論されている
2.日本全国の買物弱者は約700万人程度と言われている
3.高齢者は食の貧困を経験する可能性が高く、それは、買物に行く能力や余裕、食品の選択・調理に対する意欲や能力にも影響される
「買物弱者」や「食料品アクセス問題」、「フードデザート問題」などの言葉を報道や記事で目にしたことがありますか?
ここ10年くらいで目にするようになった言葉のようですが、そもそも買物弱者や食料品アクセス問題とは何なのか?
まずは言葉の定義からみてみましょう。
①買物弱者とは?

経済産業省は「買物弱者」を次のように定義しています。
「流通機能や交通網の弱体化とともに、食料品等の日常の買物が困難な状況に置かれている人々」
出典:経済産業省 買物弱者対策支援について(①)
さらに、農林水産政策研究所では「食料品アクセス困難人口」という言葉を以下のように定義しています。
「食料品アクセス困難人口とは、店舗まで500m以上かつ自動車利用困難な65歳以上高齢者を指します。店舗は、食肉、鮮魚、野菜・果実小売業、百貨店、総合スーパー、食料品スーパー、コンビニエンスストアが含まれす。」
出典:農林水産政策研究所(➁)
「フードデザート」は農林統計協会によって以下のように定義されています。
社会的排除の一部。
1⃣社会的弱者が集住し、2⃣食料品アクセスとソーシャル・キャピタルのいずれか、あるいは双方が低下したエリアを指す。
出典:岩間信之編著『改訂新版 フードデザート問題 無縁社会が生む「職の砂漠」(2013年 農林統計協会)』(③)
このように、様々な角度から定義され、議論されている“買物弱者問題”。
難しい表現がたくさんありますが、要は「買物に行けなくて困っている!」って人がいて、その人達は、なぜそのような状況にあるの?解決策は?みたいなことを議論しているそうです。
では、ここからは買物弱者問題の内容に迫っていきましょう。
②買物弱者はすでに約700万人
経済産業省による推計結果(2015年)によると、日本全国の買物弱者は約700万人程度と言われています(①)。この数値は、執筆時(2021年)から6年前のデータのため、より最近の数値を探してみましたが、経済産業省では出されていませんでした。
無かったら自分でやってみよう!ということで、条件の揃えられる最新の年(2018年)のデータ(④・⑤)を買物弱者数の推計方法に当てはめて算出してみました(下図)。

2018年のデータでは、2015年と比較すると40万人ほど減少していました。それでも、数百万という数字からは、少ないとは言えなさそうですね。この推計結果は60歳以上の高齢者を対象とした数値なので、車を持たずにバス利用などで生活するその他の世代も考慮すると、1000万人を超えるのでは?と言われているようです。
また、買物弱者問題は現在指摘されている農村部や山間部のような過疎地域に加えて、今後は都市部などでも問題化する可能性があると予測されているようです。
数百万人規模と推計されている買物弱者問題。買物弱者になることで、一体どんな影響がもたらされるのでしょうか。
ここでは、イギリスの研究で言及されているフードデザート(Food Poverty)を参考に見ていきます。
③フードデザート(Food Poverty)と低栄養問題

Christinaら(⑥)によると、フードデザート(Food Poverty)は、以下の3つの側面から生じると言われています。
1.経済的側面:収入、食品の価格
2.社会的側面:教育、社会的地位
3.物理的側面:店舗へのアクセス
身体機能が低下してきたり、免許返納数が年々増加傾向にある高齢者(ここに『高齢者は免許を返納すべき?「高齢者の移動手段」は外出頻度に影響する!!』のリンク張る?)にとっては、物理的側面の影響は容易に想像できます。
また、フードデザート(Food Poverty)によって、以下のような健康被害が生じる可能性があると報告しています。
・フードデザートによって、ビタミンや食物繊維、ミネラルなどの栄養を摂取する機会が不足すると、慢性病、心臓病、脳卒中、糖尿病、癌などの健康被害が生じる可能性が高まる。
・高齢者においては、低栄養が原因で転倒や骨折、身体障害のリスクが高まる。
出典:Food Poverty(⑥)
Food Povertyでまとめられていますが、「食生活や健康は、収入や、新鮮な果物や野菜の店までの距離だけでなく、それらの店に行く能力や余裕、そして健康的な食品を選んだり調理したりする個人の意欲や能力にも影響される(⑥)」ようです。
また、高齢者(65歳以上と定義)は、食の貧困を経験する可能性が高いと言います。そのうえで、「一人暮らしの高齢者で、運動能力が低下し、健康的で手頃な価格の食品を販売している店への移動に問題があり、自炊が困難な人は、質の低い食生活を送るリスクがある(⑥)」とも言及されています。
今回ご紹介したように、買物弱者と想定される人数は約700万人とされています。あなたのまわりの高齢者にも、買物が困難になり、質の低い食生活を送っている方がいるかもしれません。
この記事が、あなたが関わる高齢者の買物や栄養面などを考えるきっかけになったら幸いです。
最後までご覧いただきありがとうございました。
【参考・引用文献】
①経済産業省 買物弱者対策支援について
②農林水産政策研究所
③岩間信之編著『改訂新版 フードデザート問題 無縁社会が生む「職の砂漠」(2013年 農林統計協会)』
④内閣府 平成30年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査結果
⑤総務省統計局 人口統計
⑥Food Poverty
コメント